金継ぎを始めてみたいけれど、最初から本漆による伝統的な金継ぎを学ぶべきか、それともまずは簡単にできそうな簡易金継ぎのワークショップに参加してみるか。
そんなふうに迷っている方は多いのではないでしょうか?
本漆を使っても、新うるしをはじめとする合成樹脂を使っても、大切なうつわは直ります。
それでは、いったい何が違うのでしょう?
どちらを選べばいいのか迷っている方への“道しるべ”になればと思い、今回は簡易金継ぎと本漆を使った伝統的な金継ぎの違いを独自の視点から解説します。
まずはじめに簡易金継ぎとは?
一般的な簡易金継ぎは、「モダン金継ぎ」や「現代金継ぎ」、「簡単金継ぎ」とも呼ばれ、化学接着剤や合成樹脂を用いてうつわなどを直す手法です。
まずはホームセンターでも手に入れられる化学接着剤で割れたうつわを接着し、その上に新うるしなどの合成樹脂へ金色の粉(真鍮など)を混ぜた塗料で、接着した継ぎ目に線を引いていきます。
たったそれだけなので簡単ですし、1日あれば完成させることが可能です。
伝統的な金継ぎはとにかく手間暇がかかる!
本漆を使った伝統的な金継ぎでは、現代的な化学物質を使うことはありません。
簡易金継ぎとは異なり、接着から仕上げまで最低でも10以上の工程があるだけに、ここですべてを説明するのは難しい。
また、ひとつの工程を終えれば漆を硬化させるまでに時間がかかりますので、どんなに早くても1ヵ月ほど、通常は2〜3ヵ月くらいかけてうつわを修復することになります。
本物の「毛ガニ」と「カニかまぼこ」
簡易金継ぎと本漆による伝統的な金継ぎの技術的な違いについては、本当にたくさんの記事がインターネット上にあります。
今さら同じことを言っても仕方ありませんので、ふたつの違いについてはここまで。
ただし、そこには本物の「毛ガニ」と「カニかまぼこ」くらいの差があることはご承知おきください。
うつわを直す目的や価値観に応じて選べばいい!
ここまで説明しただけでも、ある程度はどちらを選ぶかの指標になるのではないでしょうか?
ほとんどの方は、「家でつくる普段のチャーハンに本物の毛ガニを使う必要はない」と考えることでしょう。
それと同じで、わざわざ本物の漆と高価な金を使い、膨大な手間暇をかけて直すほどのことでもない。
サクッとそれっぽく直ればいいということなら、迷わず簡易金継ぎを始めればいいと思います。
逆に「丁寧に直して末長く使いたいから“カニかま”はちょっと…」ということであるなら、本漆による伝統的な金継ぎをおすすめします。
本物と模倣の決定的な違いは時間に対する耐性
私の座辺には口縁を金で繕った古唐津の山盃があり、15年以上ほぼ毎日これで日本酒を嗜んでいます。
もちろん直した箇所が劣化して気になってきたり、飽きたりすることはありません。
仮にこれが簡易金継ぎだったとしたらどうでしょうか?
15年も使い続ければ金っぽく見えた合成樹脂は劣化し、見苦しい雰囲気になっているかもしれません。
また、簡単に直したものは、見れば見るほど粗(あら)が見えてくるもの。
毎日のように眺めていれば、きっと私なら1年も経たないうちに嫌になってくることでしょう。
時間が経つほど「経年美化」していく本漆の凄み
簡易金継ぎに使われる新うるしをはじめとした合成樹脂は、経年劣化を避けることができません。
時間が経つほど、使えば使うほど劣化していくのは合成樹脂の宿命です。
その反面、本物の漆は色褪せていくのではなく、硬化後も長い年月をかけて性質が安定し、透明感が増していきます。
もっとも美しくなるのは50年後だと、私は師匠から聞かされました。
長い年月を「美しさ」へと変換していく漆のような素材は、極めて珍しいと言えるでしょう。
永久不滅な輝きを持つ金の存在
また、我々人間にとって普遍的な価値を持つ金の存在も忘れてはなりません。
空気や水に触れても絶対に錆びたり腐食することはなく、数千年を経ても性質が変わらない。
永遠に色褪せない美しさを持つ金属であるがゆえに、そんなに欲深い人間ではなくても、毎日のように眺めていたって飽きることはありません。
ちなみに、たまに「金継ぎで使われる金は本物ですか?」と尋ねられることがあるのでお答えします。
金継ぎに使われる金粉の純度は、純金(K24)もしくはK23以上です。
本物志向の方なら選択肢は本漆による金継ぎ一択
ここまでお話すれば、もうお分かりいただけたことかと思います。
何であれ本物であることにこだわりを持ち、それを長く使うことに価値があるとお考えの方であれば、本漆による伝統的な金継ぎしか選択肢はありません。
もし特にこだわりがなければ、簡易金継ぎでも充分に楽しむことができるでしょう。
なお、このコラムでは簡易金継ぎに使われる化学接着剤や合成樹脂などの安全性、食品衛生法への対応については度外視しています。
材料の安全性や食品衛生法への対応についてはサービスを提供する事業者によって異なりますので、個別にお問い合わせいただければ幸いです。
※簡易金継ぎで広く使われている「新うるし」については、こちらの記事で詳しく解説しています。






