大切な思いを伝える金継ぎ。何十年も前に割れてしまったアンティーク家具のガラス扉。

割れを銀で繕ったアンティーク家具のガラス扉

福岡で金継ぎ工房を初めてまだ間もない頃、
ひびが入ってしまったグラスの金継ぎをご依頼くださったお客様から、
「家具のガラス扉も金継ぎできますか?」と聞かれました。
よくよくお話を伺ってみると、昔からご自宅で大切にされていた家具の扉の一枚が割れてしまい、
何十年も前からゴムテープで補修されているとのこと。
あまり見栄えが良くないので、もしできるのであれば金継ぎしたいとのことでした。

その後、お母様と一緒に実物を持ってきてくださったのですが、
お母様のお祖母様がお嫁に来た時から、福岡のご自宅にその家具はあったというお話ですから、
そうとう昔のものでしょう。
また、お祖父様が「他のものは良いけど、これだけは処分するな」とおっしゃっていたそうです。

ただ、こうしたアンティーク家具の難しいところは、
ガラスなどの部材が壊れてしまった場合、代わりになるものがもう探してもないというところ。
痛々しくゴムテープで貼りつけられていたのも、他にどうしようもなかったのだと思います。

そこで、「お力になれることがあるのであれば」と思ってお引き受けしたものの…。

親から子へと何世代にもわたって受け継がれてきた大切なお品であるばかりではなく、
昔の薄いガラスですから、ちょっと間違えばすぐに割れてしまいそうな危うさがありました。
そのため、取り扱う際の心理的プレッシャーはけっこうなもの…。
また、薄い板状のものを漆を使って金継ぎするというのは、強度面で少し不安もあります。

いろいろと考えた結果、木枠に隠れる部分、ガラスの端に和紙を貼り付けて、
漆をさらに上から塗り重ねて補強することに。
最終的には、「普通に使っても問題ないだろう」というところまで仕上げられました。

このように過去から現在、そして未来へと、大切なものを受け継ぐお手伝いができるというのは、
金継ぎの仕事ならではの醍醐味だと思います。

ゴムテープで貼りつけておいても決して悪くはないのだけれど、
それでは受け継いだ方が「なんだかなぁ…」という複雑な思いを抱えて暮らさなければなりませんし、
それはご先祖様にとってもきっと本意ではないでしょう。

でも、きちんと金継ぎされていれば、割れてしまったことだって、
ものが辿った歴史の一部分としてそこに刻み込まれながらも、全体の調和を乱すことはありません。

また、何十年先のことか分からないけれど、いつかまたこの家具を譲り受けた方が、
「あ、ここは金継ぎされているね!」なんて言いながら、指でそおっとガラス扉の傷跡に触れれば、
自然と昔から大切にされてきたものだということも伝わると思います。

そんなふうに大切な思いを「伝える力」も、金継ぎにはあるのではないでしょうか。

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