金継ぎとテレピン油についてのQ&A!よくある12の疑問にズバリとお答えします。

小瓶から揮発するテレピン油

金継ぎで使われるテレピン油について、最近は「安全性に問題がある」「伝統技法ではない」といった主張を目にすることが増えてきました。そこで、この記事ではテレピン油についてのよくある質問に、Q&A形式でズバッと回答します。
より詳しい根拠や歴史的な検証まで知りたい方は、こちらの完全版記事もあわせてご覧ください。

Q1. テレピン油とは何ですか?

テレピン油は、松脂を蒸留してつくられる天然の植物性揮発油です。「VOC(揮発性有機化合物)だから安全性に問題がある」と指摘されることもありますが、実際にはラベンダー精油やペパーミント精油、ユーカリ精油など、身近なエッセンシャルオイル全般もすべてVOC。ちなみに、テレピン油の主成分のひとつであるα-ピネンは、森林浴の香りを代表する成分(フィトンチッド)のひとつです。

▶ テレピン油とフィトンチッドの関係について詳しくはこちら

Q2. VOCは危険だと聞いたのですが?

VOCそのものが危険だということはありません。身近なエタノールやオレンジオイルもVOCです。ただし、テレピン油は塗料やワックスなどを使う製造現場でも使われるため、厚生労働省や海外の評価機関は有害性評価をおこなっています。そこでは、高濃度暴露時の呼吸器刺激、頭痛、めまいなどの健康影響が指摘されていますが、インターネット上では「高濃度暴露時」、つまり「大量のテレピン油が揮発した空気を吸った時」という重要な部分が切り離され、有害性だけが語られるケースがほとんどです。

▶ VOC(揮発性有機化合物)について詳しくはこちら

Q3. テレピン油は健康に悪いのでしょうか?

米国国立労働安全衛生研究所(NIOSH)などの労働衛生機関は、さまざまな物質が労働者に与える健康影響を踏まえ、曝露基準値を設定しています。労働者が1日10時間、週40時間勤務する職場環境を想定した管理指標(REL)は100ppm。つまり、職場に揮発しているテレピン油の濃度を100ppm以内に管理することを推奨しています。一方、健康に害を及ぼす濃度(IDLH)を800ppmに定めています。大量にテレピン油が揮発した空気を吸い続けると、目の刺激、頭痛、めまい、吐き気などの症状が現れる恐れがあります。

▶ 推奨されている曝露基準値について詳しくはこちら

Q4. 金継ぎではどれくらいのテレピン油を使いますか?

普通に金継ぎをする場合であれば、漆を希釈するために1〜3滴、筆洗い用に小さじ1杯ほどをテーブルに置いておく程度です。その程度の量を使うくらいでは、NIOSHが定める職業曝露基準値100ppmには到底達しません。しかも、100ppmというのは「労働者が安全に仕事を続けられる職場環境」の目標数値ですので、100ppmを超えたら危険という意味ではありません。その基準からすらも、金継ぎで使う量は大きくかけ離れています。

▶ 金継ぎをする上での曝露量について詳しくはこちら

Q5. テレピン油は厚生労働省のシックハウス規制対象ですか?

いいえ。 テレピン油(α-ピネンなど)は、厚生労働省が定める個別の室内濃度指針値の対象ではありません。一方、室内のVOC全体を評価するTVOC(総揮発性有機化合物)では、建物の木材や木製家具などから放出されるα-ピネンなどの天然由来成分も含めて評価されます。ただし、TVOCは特定物質の危険性を示すものではなく、室内全体の空気状態を把握するための補完的な指標です。そのため、「TVOCの対象である=テレピン油が厚生労働省の規制対象である」という意味ではありません。

▶ 厚生労働省のシックハウス対策について詳しくはこちら

Q6. テレピン油を使うことは食品衛生法違反ですか?

いいえ。そのような事実はありません。インターネット上で「食品衛生法の『ポジティブリスト制度』が施行され、食器への使用が禁止されている」という主張を見かけたことがありますが、そもそも『ポジティブリスト制度』というのは食品に接触する合成樹脂(プラスチック)について制定されている法律です。漆器や本漆を使った金継ぎについては、完全に対象外であり、テレピン油についてもまったく関係ありません。

▶ 食品衛生法の『ポジティブリスト制度』について詳しくはこちら

Q7. 食器にテレピン油は残りますか?

テレピン油は揮発性なので、基本的には残りません。調査した範囲でも、漆を含む塗装分野で使用されたテレピン油の残留量や溶出量を評価した公的な試験データ、および公的機関が残留リスクを問題視している資料は確認できませんでした。そのため、現時点でその残留リスクについて論じることは困難です。

▶ テレピン油の残留量について詳しくはこちら

Q8. 金継ぎはテレピン油なしでもできますか?

はい。もちろん可能です。ただし、市販の精製漆は粘度が高い傾向にありますので、それを希釈せずに繊細な線を引くのは難しいですし、ストレスを感じる作業になります。そのため、多少なりとも仕上がりには影響が出るでしょう。とは言え、粘度を調整するために自分自身で生漆を精製するというやり方もあります。漆を精製するのに最低でも2〜3時間ほどはかかりますが、自分好みの漆を使って作業ができます。チューブに入った漆は使わず、より古くから伝わる古典的なやり方で金継ぎを楽しみたい方は、こちらを選択するといいでしょう。

▶ 昔ながらの精製方法について詳しくはこちら

Q9. 漆精製メーカーはどう考えているのでしょうか?

国内の主要漆精製メーカーは9社あります。その中で、金継ぎセットを販売しているのは5社。これらを調査すると、4社の商品にはテレピン油、1社の商品には石油系の溶剤が金継ぎセットに含まれていました。漆精製メーカー各社の商品にテレピン油、もしくは同等の用途で使われる溶剤が入っている。ということは、食品衛生法や厚生労働省の規制、安全性、残留リスクなどについて、特に問題はないと判断している可能性が高いと考えられます。

▶ 主要漆精製メーカーの調査結果について詳しくはこちら

Q10. テレピン油を使うのは伝統的な金継ぎではないのですか?

結論から言えば、揮発性の植物油を溶剤として使うのは伝統的な技術体系の一部です。テレピン油そのものが広く使われ始めたのは明治時代以降だと考えられますが、それ以前は主に樟脳や片脳油が、漆を希釈するために使われていました。樟脳・片脳油というのは、テレピン油が松脂から精製されるのと同じように、クスノキを精製してつくられる揮発性の物質。これが漆芸に使われていたという記録は江戸時代中期にまで遡ることができ、少なくとも200年以上の歴史はあるので、伝統的だと言っても差し支えはありません。

▶ 金継ぎに使われる溶剤の歴史について詳しくはこちら

Q11. 使っているテレピン油が臭いんですけど本当に大丈夫ですか?

もし強い刺激臭を感じるということであれば、それは「テレピン油」という名称であっても石油系溶剤を配合した製品である可能性があります。匂いが気になる場合は、それが本当に植物由来のガムテレピン油(純テレピン油)かどうかを確認して、もし違っていたら天然由来のものを試してみてください。匂いの問題は、おそらくそれだけで解決できるはずです。

▶ テレピン油の種類について詳しくはこちら

Q12. けっきょくテレピン油を使っても安全なのでしょうか?

結論としては、金継ぎでテレピン油を使うことに重大な安全上の懸念はありません。比較的、安全性の高い物質ではありますが、可燃物であり、大量に蒸発させてしまうと目の刺激や頭痛、めまい、吐き気などの症状が報告されているのは事実ですので、もちろん取り扱いには注意が必要です。とは言え、決して特別なことをする必要はありません。家庭用洗剤やアルコール、灯油、ガスなども正しく使えば便利で、誤って使えば危険です。テレピン油も同じように、性質を理解して適切に扱うことが大切です。



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