最近、金継ぎ教室で生徒さんたちと話していると、「えっ!新うるしって漆じゃないの?」と驚かれる方が、思いのほか多いことに気づきました。
その理由を尋ねてみると、新茶や新しょうが、新たまねぎのように、貯蔵されていたものではなく、そのシーズンに収穫されたばかりの新しい漆だと思っていたと言うのです。
また、天然の漆を改良して、かぶれないようにしたものだと思っていたという方もいます。
結論から言うと、「新うるし」は天然の漆ではなく、カシュー塗料をベースにした合成樹脂の塗料です。
確かに言われてみれば、これほど紛らわしい商品名はないかもしれません。
そこで今回は、この「新うるし」について、さらには「新うるし」を使った簡易金継ぎについて深掘りします。
そもそも「新うるし」ってなに?
簡易金継ぎで一般的に使われている「新うるし」は、正確に言うと釣り具メーカーである櫻井釣漁具株式会社が販売する『ふぐ印 新うるし』という商品です。
これは、ヘラブナ釣りに使うウキや和竿などを自作する釣り人に向けたものです。
こうした釣り具にもかつては漆が使われていましたし、現在でも伝統工芸としての釣り具には使われています。
でも、漆に触れる機会がない現代人にとって、本物の漆を使うのはちょっとハードルが高い。
そこで、かぶれる恐れや漆風呂(ムロ)などの設備を用意する必要がなく、誰もが安心して気軽に使える漆の代用品として開発された塗料が『ふぐ印 新うるし』です。
本物の漆じゃないなら一体どんな成分?
「新うるし」をひと言で説明すると、家具や仏壇、楽器などに使われているカシュー塗料系の商品。これを釣り具のDIYに使いやすいよう、改良したものだと言えるでしょう。
そして、このカシュー塗料の主成分は同じウルシ科であるカシューナッツの殻から得られる成分を利用した塗料です。
「天然の植物樹脂だったら漆と同じじゃん!」と思われるかもしれません。
確かにカシューナッツ殻液そのものは天然成分です。
ただし、漆のように天然酵素(ラッカーゼ)の働きで硬化するわけではありません。
そのため、漆とはまったく異なる仕組みで塗膜を形成するよう、化学的に設計されています。
簡易金継ぎの分岐点となった食品衛生法の改正
2025年6月、食品衛生法の「ポジティブリスト制度」運用が完全施行されました。
ポジティブリスト制度では、食品に触れる器具・容器包装に使用できる物質について、安全性が確認されたもののみを使用できる仕組みが採用されています。
そのため、「新うるし」を含む従来の簡易金継ぎ材料については、食器用途における適合性を確認することが難しくなりました。
現時点では、食器としての安全性を保証した形で「新うるし」による簡易金継ぎを提供することについて、従来より慎重な対応が求められるようになっています。
だからといって「新うるし」が悪いわけじゃない
そもそもの話、「新うるし」は釣り具をDIYで製作するために開発された塗料です。
簡易金継ぎに使い出したのは、「これを漆の代わりに使えば誰でも気軽に金継ぎができるのでは?」と考えた、釣り具メーカーとはまったく関係のない人たちです。
そして、その人たちもけっして悪意があって始めたわけではありません。
簡易金継ぎが登場したおかげで、金継ぎという伝統文化に興味を持つ層が飛躍的に広がったことは事実です。
そして、そこから漆を使った本格的な金継ぎを始める人々も増えたと感じています。
釣り具用の塗料として販売されていた「新うるし」が、ある日をさかいに「簡易金継ぎ」という思わぬ分野の登場により一躍時代の寵児となり、その役割を終えた。
現在は、ただ単にそういう段階なのではないでしょうか。
「簡易金継ぎ」そのものは、これからも食品衛生法に掲載されたポジティブリストに適合した製品を使うことで、独自の発展を遂げていくことだろうと思います。






