古いけれど、まさに斬新!鎌倉時代の陶片を集めてつくられた古瀬戸呼び継ぎ瓶子の話。

福岡で金継ぎ工房を立ち上げることになり、室内のインテリアなどをどうしようかと考えていた時、
ふと思い出したのが、以前、福岡市内の骨董屋さんで見つけた李朝の壺。

とても美しい粉青沙器(三島)の壺だったのですが、
バラバラに割れたものを接着剤でくっつけてあり、参考品としてお店の隅っこに置かれていました。

割れていなかったら、大阪の東洋陶磁美術館あたりに展示されていてもまったく違和感がないようなものです。
ご主人にお値段を聞いてみると、とても良心的で買おうと思えばなんとか買える価格。
これを自分で金継ぎして家に飾ろうかどうかと悩んだものの、
我が家にはやんちゃ盛りのお猫さまが2匹おり、きっとまた壊されるだろうと思ってその時は我慢しました。

その李朝の壺を、できれば当初考えたように金継ぎし直して、新しく立ち上げる金継ぎ工房に飾りたいと思ったのです。

とは言え、壺を見つけたのはその時から2年ほども前の話。
もうないかもしれないし、なくても仕方がないけれど、
あんなにバラバラに割れてしまっている壺を買う人もいないのではなかろうかという一縷の望みと、
数枚の一万円札を持ってその骨董屋さんへ出かけました。

すると、なんと李朝の壺どころか、骨董屋さんそのものがないではないですか!
骨董屋さんがあったはずの場所が、どういうわけかチェーン店っぽいステーキ屋さんになっていたのです。

そこは福岡はおろか、九州でも有数の繁華街である天神。
時代の波には逆らえず、もうご商売をやめられてしまったのかもしれないと思いました。

ところが、インターネットで調べてみると、なんと店舗を移転して営業されていることが判明。
天神からはほんの少し外れた赤坂方面ではあるものの、
同じ福岡市中央区にあり、決して遠くはなかったため、すぐに新しいお店まで行ってみることにしました。

以前と変わらず気さくなご主人が出迎えてくださり、その壺の話をすると、やはり売れてしまったとのこと。
私のことも覚えてくれていて、「あんたが買ったと思うとった」と言いますが、もちろん違います。

その時、「やっぱりそうだよなぁ」と思いながら店内を見せていただいていた時に出会ったのが、この古瀬戸瓶子。

鎌倉時代の陶片だけを集めてオリジナルに近い形にまで仕上げていますが、ここまで来るともうモダンアートです。
およそ千年も前につくられた、間違いなく古いものなのに斬新。
当然ながら古美術としての価値は落ちるのでしょうが、そこには古瀬戸瓶子そのものが持つ美しさに加え、
また違った迫力というか、オーラが宿っているように感じられます。

李朝の壺はもうないけれど、「こっちのほうが金継ぎ工房に飾るにはふさわしいかも」と思ってお値段を聞くと…、
残念ながら握りしめて行った金額の3倍くらい。
「せっかく探してまで来てくれたから…」とずいぶんお値引きしてくれるというありがたいお話でしたが、
それでも大きく予算オーバーなのでいったんは諦めました。

でも、家に帰って思い出すとますますその瓶子が気になって気になって、どうしようもなくなってくるもの。
そして、いざ買える時になってから行っても、もうそこにはないのが骨董なのです。

その後、どうなったのかはご覧の通り。
金継ぎ工房のエントランスに、根付の蝦蟇仙人さんと一緒にでーんと鎮座しております。

ちょっと無理はしたかもしれないけれど、時間が経てば「あの時に買っておいて良かった」と思えるお買い物。

継ぐことによって、本来失われていたはずのものが、千年もの時を超えてよみがえるばかりではなく、
そこにはまったくべつの新しい美しさが宿る。

金継ぎが持つそんな魅力を、この古瀬戸呼び継ぎ瓶子は教えてくれるような気がします。

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