金継ぎを依頼したら修理期間はどれくらい?長い時間がかかるには理由があります。

接着したカップに中塗りをしている様子

金継ぎをご依頼されるお客さまがいらした際、「金継ぎ 八花」では修理期間を「およそ4ヵ月ほど」とお伝えしています。
すると、「え、そんなにかかるんですか!」と驚かれることもしばしば。
また、金継ぎ教室の見学にいらっしゃる方も、3〜4回ほど通えば仕上がると思われていることがあります。

本当に4ヵ月もかかるのかと言われれば、実際にはそうではありません。そのうつわにつきっきりで取り組めば、おそらく1ヵ月半〜2ヵ月ほどで仕上げることはできるでしょう。ただ、他のお客さまの修復作業も同時進行で数多く手がけておりますので、どうしてもそれくらいの期間は必要になってしまいます。

では、なぜ金継ぎにはそこまで長い時間がかかってしまうのでしょうか?

金継ぎを仕上げるまでには最低でも10以上の工程がある

まずは割れた破片を接着して、乾いたら割れていた部分に金を混ぜた漆で線を引く。その漆が乾けば完成。
もしかすると、一般的にはそれくらいの認識かもしれません。
でも、実際にいちばん時間がかかるのは、接着してから金粉を蒔くまでの間。ここで妥協することなく、どこまできちんと手間暇をかけるかで、仕上がりの美しさに大きな差が出ます。

金継ぎの工程表

例えば、「金継ぎ 八花」では、一般的な割れの修復を上図のような工程を経て仕上げています。
工程5までの作業自体は1日でできますが、そのあとが長い。
うつわを接着した漆が硬化するまでに、およそ1週間。強度的に不安な場合はもっと時間をかけて硬化させます。漆は時間を置けば置くほど硬化していきますので、長ければ接着だけで1ヵ月ほどかけることも。

その後、最終的に金のラインとなる継ぎ目の溝を、錆漆というパテのようなもので埋めていきます。この作業が終われば、また5日〜1週間ほどかけて硬化させます。

そこからは、うつわと継ぎ目の線の部分がフラットになるように、研いでは塗り、研いでは塗りの繰り返し。最短でも2〜3回。ただ、実際にはもっと繰り返すケースがほとんどです。その都度、やはり漆を硬化させるために5日〜1週間ほどかけるのですから、どうしても時間がかかります。
そして、最後に金粉を蒔き、それを硬化させて磨けば完成。

細部の細部にまで気を配り、気が遠くなるくらい同じ作業を繰り返して仕上げるのが伝統的な金継ぎです。
正直なところ、「研いでは塗り」をそこまで繰り返さず、多少の凹凸に目をつむれば、もっと早く仕上げることはできます。
つまり、手間暇を惜しまず、地道な作業の繰り返しに時間をかけるということは、妥協を一切しないということ。
金継ぎに限らず、伝統工芸にかかる膨大な時間は、ある意味では品質の裏返しだと言うことができるかもしれません。

なぜ漆は硬化するまでにそんなに時間がかかるのか?

もうひとつ、伝統的な金継ぎに時間がかかる理由は、漆という「自然」を相手にしているから。
普段は「漆が乾くまで…」と私も言いますが、厳密には漆は「乾く」のではなく「硬化する」ものです。一般的な接着剤や塗料は、水分や有機溶剤の揮発によって乾きます。しかし、漆は逆に空気中の水分を取り入れて固化していくので、「乾く」という表現は正確ではありません。
その仕組みを簡単に説明すると、漆に含まれる酸化酵素、ラッカーゼが空気中の酸素(水分)を取り入れ、漆の主成分であるウルシオールを酸化させます。そして、酸化したウルシオールが細かい網の目状の高分子となって硬化していくのです。
少し難しい話になってしまいましたが、重要なのは「空気中の酸素(水分)を取り入れて固まる」というところ。それだけ覚えていただければ十分です。

つまり、漆を硬化させるためには、湿度があるところに置いてウルシオールが酸化するのを待つしかありません。
これはあくまでも自然の働きなので、私たち人間にできることは待つ以外、何もないのです。
ただし、このラッカーゼによる酸化重合反応を促進させるために、最適な環境を用意することはできます。
それが、内部を温度20〜30℃、湿度70〜80%に保つ漆風呂(むろ)という加湿装置。漆風呂の中に入れておけば、冬場などの乾燥した時期でも安定して漆を硬化させることが可能です。

現代的な合理性とは対極にあるからこその価値

目的を達成するために徹底して無駄を省き、もっとも効率的で効果的な手段を選択することが、経済成長を求め続ける資本主義、グローバリズムにおいては最適解だとされてきました。
しかしながら、近年はこうした合理主義に疲弊し、懐疑的な目を向ける風潮が世界規模で拡大しています。

金継ぎの精神性が世界各国で注目されている理由も、まさにここにあるのではないでしょうか。
もちろん現在、海外の人々が魅了されているのは、主に「壊れたら終わりではない。負ってしまった傷や不完全さを隠すことなく受け入れ、そこから新しい価値を生み出す」という金継ぎの哲学的な部分かもしれません。

でも、これからは資本主義、グローバリズムが追い求めてきた合理性とは対極にある価値が、高く評価される時代になるような気がしています。
自然の流れに身をゆだねながら、気が遠くなるほどの手仕事を積み重ねる。
金継ぎにかかる膨大な時間は、もしかすると私たちがこの時代に何よりも必要としている、「心の豊かさ」を取り戻すための時間なのかもしれません。

参考文献
漆の硬化に関わる化学的特性については、以下の文献を参考にしています。
四柳嘉章著『漆Ⅰ・Ⅱ』ものと人間の文化史/法政大学出版局(2006年)

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